こんな能力(ちから)なんていらなかった
その顔にポタ……と滴が落ちてくる。
「こんな汚れがついてたら紫音は、紫音は……!!」
「ゆ……」
「紫音に嫌われるのだけは嫌なの……」
しゃくりあげる優羽の頬に紫音はそっと手を伸ばす。
——何て貴女は残酷なんだろう。
紫音はもう止められないと、思った。
そして自分の上体を起こすと優羽にキスをした。
離れては近付いて、近付いては離れ。
戸惑う優羽の背中に紫音は腕を回しギュッと抱き締めた。
「……俺は優羽のことが好きだよ」
優羽の細い体がビクンとはねる。
「……嘘だ……」
「嘘じゃない、こんな顔で嘘なんて言える?」
優羽は紫音の顔を涙目のまま覗き込むと、ほんとだ。と呟いた。
「嘘じゃないんだ……」
「嘘じゃない」
今すぐにでも君を組み敷いて、もう自分しか目に入らないようにしたい。
もう二度と自分以外の名前を呼べないようにしたい。
そんなことを考えてる、この激しい感情が嘘なわけない。
ふんわりと笑った優羽は紫音にもたれかかるように体から力を抜く。
そして目を綴じた。
紫音は寝息を立てる優羽に内心でホッとする。
だがすぐに苦虫を噛み潰したかのような顔で抱きしめたままの優羽を見る。