こんな能力(ちから)なんていらなかった
気怠げに立ち上がると先生の立つ教壇までふらつきながら行く。
「千歳さん? どうしましたか?」
「ちょっと、頭痛くて……」
渾身の演技をかます。
若干目を潤ませておくのも忘れない。長年の経験と両親からのアドバイスだ。この方が調子悪いように見えるらしい。
「帰るか? それとも保健室で休んでくるか?」
例外なくこの先生も心配してくれる。
「保健室行ってきます……」
「体調よくなったら戻っておいで」
優しい声色で言われる。
ごめんなさい。これ、仮病なんです。
なんてことが言えるはずもなく心の中では必死に謝まりながら教室を出す。
急ぐ足を抑えて、ゆっくりゆっくり足を進める。
階段の踊り場まで来たところで姿勢を正す。胸ポケットをごそごそとすると目当てのものに手が触れる。掴んで引き抜くと出てきたのは人型の紙。
その紙に霊力を込めるとボンッと煙があがった。煙が晴れるとそこには優羽と全く同じ形をした人間が立っていた。
優羽はその出来栄えに満足した笑みを浮かべる。
「保健室で病人のフリして寝てるように」
『はい』
命じられたそれは慇懃に優羽に頭を下げる。