こんな能力(ちから)なんていらなかった
「え、でも私羽根持ってないし、記憶だってないよ……?」
「世界には同じ顔の奴が三人はいるらしいからなー」
「笑い事じゃねぇぞ唯斗」
叱られた唯斗はとにかく、と言い募った。
「一人になるな、連絡をしろ。これだけは守れ」
「絶対守ってくれ、お願いだから。仕事の前にも、一人にならないとしてもなるべく連絡して。俺は優羽を失いたくはないから」
最後の紫音の言葉に若干頬を染めながら頷いたその時、コツリと音がした。
三人で一斉に音がした窓の方を向く。
そして息を呑んだ。
————一面の黒。
烏の大群で窓の外が埋め尽くしていたのだ。
それらは入れ替わり立ち代りで窓を嘴で叩いては次の烏が突く。
二人がバサッと翼を広げる。
唯斗もangelicだったのか、と妙に納得した自分がいた。
唯斗の羽根は白く、紫音の羽根は黒い。
その二人が窓に向けて手を伸ばしたのを見て、待ってと叫んだ。
「ダメ、あれは違うの!」
「どういうことだ——」
優羽は二人の間をすり抜けて窓に向かう。
すると、烏の大群は掃けて、一つの影が残った。
「紫音、開けてもいい?」
「……待ってろ」
紫音が羽根を閉じてからこっちに向かってくる。そして窓の横についた機械を操作すると窓がゆっくりと開いた。