こんな能力(ちから)なんていらなかった
男は泣き顔のまま顔を上げると、よくぞご無事で……と震える声で告げた。
一向に泣き止みそうのない男を見下ろしながら困惑の表情を浮かべる。
どうしたらいいんだろう、これ……
困り切って紫音を見れば、紫音も困った、という顔をしていた。
「優羽、こいつは俺の秘書で、名前は黒崎晃。小さい頃からの仲で同じ学園に通ってる」
自分の紹介ぐらい自分でしろ!と紫音が言ったところで、そうでした。と黒崎は持っていた鞄を漁った。
「失礼致しました、つい興奮してしまいまして……。こちらをどうぞ」
「千秋……とケータイ?」
「見つけた時には既にこのような状態に……申し訳ございません」
ケータイはコードで繋がっているような状態だった。
死亡確定だろう。
優羽は二つとも受け取るとありがとうと呟いた。
「というか紫音と同級生なんでしょ?だったら敬語なんていらないよ?」
「では、……いや、じゃあこれからは晃って呼んで」
「晃ね、了解」
晃は他の二人ほどではないが、それでもかっこいい顔をしていた。
髪は短く、サッパリとしていて、若干肌は日に焼けているのか黒い。
秘書であるのが信じられないほど爽やかな青年だった。