こんな能力(ちから)なんていらなかった


 若干口の悪いこの男、唯斗は話すとかなり気さくなやつで、あっという間に軽口を叩き合う仲になった。


「こんな早い時間に歩いてるってことは、優羽のとこも期末?」

「そー。でも今日が最終日だったからもう終わり〜」

「俺らも一緒〜」


 忌々しい期末が終わりを迎えたら、あとは授業も特にない。
 華桜院もきっとそうだろう。


「……丁度よかった」


 唯斗との会話を聞いていた紫音がそんなことを言う。


「何が?」


 紫音は笑うと、来週の二十五日って空いてる?と訊いた。


「それって……」

「水族館行かないか?特別展示やるんだって」

「行くっ!!」

「じゃあ、空けとけよ」


 即答した優羽に紫音はククッ……と笑う。


「わかりやすーい」


 唯斗が後ろから紫音には聞こえないような声量でボソッと言う。


 優羽は唯斗を一瞥するとその足を思い切り踏んだ。


「いって!!!」

「唯斗うるさい」

「踏んだくせにその態度か!?」

「唯斗、五月蠅いよ」

「唯斗様……少々声のトーンをお下げください」

「晃まで!?」


 ひっでーと言う唯斗はそんなこと思ってない。だって顔が笑ってる。

< 293 / 368 >

この作品をシェア

pagetop