こんな能力(ちから)なんていらなかった
「紫音様……そろそろお時間が」
「そうだな……今日は仕事は?」
それが自分に向けられたものだと気付くのに少し時間がいた。
「……あ、なっないよ」
「そーなの?迎えは?」
「最寄りに奈々がいる」
「じゃあ大丈夫だね。俺もかーえろっと」
三人とはこのままお別れのようだ。
唯斗がじゃーなと手を上げ、続いて晃が失礼しますと頭をさげかけ……慌てて、ではまたと言い直す。言い直してもまだお堅い。
優羽もまたねと手を振り返す。
しかし頭の中では違うことを考えていた。
紫音ともバイバイかぁ……。
名残惜しく思っていると、紫音が微笑む。
その笑顔はいつも優羽の胸を高鳴らせる。
「またすぐ会えるよ」
完璧に心を読まれてる。
そして一回優羽の頭を撫でた後足早に二人の元へと行ってしまった。
茶色のふんわりとした髪を見つめながら優羽は撫でられた場所に手を置く。
そこはじんわりと暖かい。
紫音の優しさは嬉しい。
デートできることも嬉しい。