こんな能力(ちから)なんていらなかった
服を買いに行ったり、したことのないメイクを練習してみたり。
今まで通りではダメだから。
だって明日は年に一度の特別な日。
たまには女の子になってもいいでしょう?
ふと時計を見あげればチャイムがなる三十秒前。そろそろ担任が来る時間だ。
体を起こした丁度その時、教室の扉がガラリと音を立てながら開く。
紛らわしい時間だったのと開いたのが教室の前の扉だったから、皆一瞬会話をやめてそっちを見た。先生が来たのだと思ったのだ。
実際は先生ではなく、中に入ってきたのは葵で、皆の視線が自分に集まってることに気がついて少しだけ目が泳がせていた。
「先生かと思ったよー」
「ねぇー」
暖房の前の四人組が葵に笑いかける。
葵も優羽と同じく転校してきたのに、クラスにほどよく馴染んでる。
美人はずるい。
やさぐれていると葵がこっちに向かって歩いてくる。
そして今日も可愛い笑顔で口を開ける。
「おはよう」
優羽も『おはよ』と返そうと口を開く。
が、その言葉を発することはできなかった。