こんな能力(ちから)なんていらなかった
優羽は机の上に椅子を上げるとさっさと教室から出た。
教室から出る間際、どっかによろーよとはしゃぐ声が聞こえた。
今日は中間試験の最終日。
この日だけは皆が皆嬉しそうな顔をして、放課後の話をする。
いくら都内で有名な進学校だからと言っても実際は普通の高校生だ。いつも机に囓りついてるわけではない。
テストが終わった日ぐらい仲良い友達とどこかに寄り道することは普通のことだろう。
しかし優羽にはそのような友達はいなかった。言ってしまえば挨拶できるような友達ですらも。
この学校に転校してから早二ヶ月。されど二ヶ月。普通ならそのような友達がいてももうおかしくはない。というかおかしい。
おかしいのは承知、なのだが、転入してきたタイミングが悪かった。
友達なんていてもメンドいだけだし……。
私は仕事で忙しいし……。
そう自分の本心を誤魔化しながら廊下を歩く。
しかし、段々とその足は早くなる。
——突き刺さる視線が鬱陶しい。
ジロジロと品定めされてるかのような嫌な視線。
優羽はこの視線を感じると体が熱くなる。
カッと心の底から怒りが込み上げてくるのだ。ともすれば叫びたくなるぐらいの怒り。手を上げ、殴りかかり、思い切り怒鳴りつけたくなるぐらいの怒り。