こんな能力(ちから)なんていらなかった



 優羽の横に膝をついて座った男は、優羽の髪を引きながら言った。


「『そんな口を聞いているんだ?』」


 男はもう一度優羽の頭を床に打ち付ける。
 引いて、打ち付ける。引いて。打ち付けて。引いて。


 鈍い音が聞こえなくなった時、優羽の目は虚ろに開いているだけだった。


「『お前に訊ねるという行為は許されていない、そんなことすらも分からないのか?』」

「……分かるわけないでしょ、バッカじゃないの?」

「まだそんな口が聞けるとは……驚きましたよ」


 男は優羽の髪から手を放すと脇腹を思い切り蹴り上げた。


「うっ……!」


 冷たい床の上で優羽は咳き込んだ。


「先程のセリフは全てかつての貴女が言ったものです。実際に言われてどのようなことを思いましたか?」

「けほっ……どうもこうも、ない」

「随分と偉そうで傲慢ではありませんか?」

「……んなこと言われても」


 実際王の方が身分は上なのだから、そう思っても耐えなければいけないのでは——?


 それに、こんなことだけで王に反逆なんてするだろうか?
 他にもなにかあったとしか思えない。


< 317 / 368 >

この作品をシェア

pagetop