こんな能力(ちから)なんていらなかった
「下界で暮らす薄汚い貴女に命令されることすら屈辱的であったというのに……こんなことをされて恨まない者がいるとでも?」
「……こんなことされるような何かをあんたがしたんじゃないの?」
男は優羽を一瞥すると再び優羽の腹を蹴り上げた。
ボキンと嫌な音がした。
「…………うあぁ、……ああ、いた、ああ」
「ははっ!やはり貴女は地に這ってる方がお似合いですよ!」
何度も何度もぶつけられる爪先は的確に折れたアバラを狙っていて、防御しようとも腕も足も動かせない状態ではどうすることもできなかった。
「あははっ、あははははははは、見ろよ!弱い!弱いんだよ!なぁ?人間なんて結局は動物にすぎないんだよ!!俺等みたいな神の創造物には勝てないんだよ!!!」
もう痛みも、耳から入ってくる言葉も、周りから送られる嘲笑も、認識なんて出来なくて、ただただボンヤリと開けた目で床を見ていた。
いつの間にか男から敬語がとれているなんて気付きもしなかった。
——何も考えたくない。
痛い。苦しい。息ができない。
まるで肺が潰れてしまったかのよう。
このまま深い闇の中で目を瞑って寝てしまいたい。
——そう思ってた、
はずだった。
チャリ……と微かな金属音を聞くまでは。