こんな能力(ちから)なんていらなかった



 そのスッとした輪郭の内にあるパーツは全て完璧で、それが集まった顔はやはり非の打ち所がなくて、言葉が出ない。

 若干天パの入ったフワフワの髪。金髪に近い茶髪の髪は思わず手を伸ばしそうになるほど柔らかそうに見える。毛穴が見当たらないほど極め細かな肌は世界の女が嫉妬するほど滑らかだった。

 そして極めつけは意思の強い瞳。伏せられた睫毛は長く、目の下に影を落とし、その睫毛に隠された切れ長な目は見るものを硬直させる。

 まるでおとぎ話に出てくる王子様だ。

 現実にこんなのがいるなんて思ってもみなかった。
 誰も思わないと思う。この男と出会うまでは。

 自分の両親もかなり美形な部類に入ると思っていたが、上には上がいることを優羽は思い知る。


 まぁ、優羽にその美形遺伝子は受け継がれなかったようだが。
 そもそも本当にあの二人の子供なのかも疑わしいのだが。

 とほほと項垂れた優羽を紫音は昨日とは違い不機嫌そうな顔で見る。
 優羽はさらに眉を垂らすしかない。

 その顔のままで紫音は焦点を優羽の着ている制服に合わせそして戻した。


「急ぎか……」

「はい?」


 紫音は小さな声で何か言うと、優羽の身体を解放した。結局何をしたかったのか分からない。
 優羽は背を壁につけたまま離れていく紫音を見ていた。だから、不意に顔を上げた紫音と目が合ってしまい、優羽は小さく息を吸う。


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