こんな能力(ちから)なんていらなかった
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今か今かと待つ時は、数時間にも思えた。
三人の間に妙な沈黙が降りる中、唯斗は俄かに騒がしくなった上空を仰ぎ見た。
「……なんだ?」
最初は数個しかなかった黒い点が見る間に増え、あっという間に上空は黒で埋め尽くされていくのを唯斗達は黙って見ていた。
「んだよ、あれ……」
「カラス、ですね」
「んなこと知ってんだよ!」
二人が話してる内容なんて耳に入らない。
このような状況でも紫音の目はある一点を捉えていた。
そしてそれはすごい速さで近づいてくると、紫音の後ろに降り立った。
「流……だっけか?」
「……緊急事態だ。力を借りたい」
流は紫音に対して頭を下げながらそう言った。
その所作は今までの紫音への態度が嘘のようだった。
「……」
しかし、それに紫音は無言しか返さない。
それは唯斗も晃も同様だった。
「おい……」
「……」
「何かを言え」
「……」
紫音は流の方を一度も見ずに、ひたすらある一点を見据え、立っていた。