こんな能力(ちから)なんていらなかった


「……何処へ行くつもり?」



 唯斗がその背中に問いかけると、流は京都とだけ答えた。


「……優羽の祖父を訪ねても無駄だぞ」

「何!?」


 凄い形相で振り返った流に対して唯斗は、淡々と答える。


「優羽の祖父が昔、紫音の結界を壊そうとしたんだけど、ムリだったよ」

「……じゃあ、どううしろって言うんだ?」

「どうしようもできないな」

「なんだとっ!?」


 流が畳んでいた羽を勢いよく広げ、バサリと羽音をさせたかと思うと、屋上を突風が吹き抜けた。普通なら目も開けられないほどの風圧だった。

 唯斗も晃も腕で顔を庇う。だが、紫音は何事もなかったかのように前を見据えたままだった。


「……五月蝿い」


 代わりにそれだけ言う。

 それは小さな呟きだったのにも関わらず、その場の空気は凍りついた。


 長い付き合いの唯斗と晃なら、紫音の今の心境を理解して、自らの身体を大事に思って押し黙るのも分かる。
 しかし、流までもが口をつぐんだということは、その呟きに過度な苛立ちが紛れていたことの表れだろう。


 呟いた後、また何も言わなくなった紫音の後ろで、流は唯斗の耳元に口を寄せた。


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