こんな能力(ちから)なんていらなかった
◇
真っ暗な中、痛みを待ち構える。
だが、それは、待てども待てども一向に来なかった。
何故か暖かくて、自分は死んだのかもなんて馬鹿なことを考える。思考することができるのだから死んでいるはずがないというのに。
不可解すぎて目をそっと開ける。けれど、それでも世界は真っ暗で目を瞬かせる。
知らぬ間に視神経でもやられたかと、目をこすろうとしたら何かが手に当たった。
「……何これ?」
「俺の手だ」
その声に優羽の体は固まった。
どうして。
「……なんで」
すると、目を覆っていた手が外された。
突然の光に優羽は目を細める。
だが、確かに見えた。
「ここに……?」
「お前が呼んだから」
紫音はそう言うと、微かに笑った。
「……アラウディ!!」
頭を少し動かして声の方を見る。
そこには、優羽を笑いながら蹴っていた男が、数メートル離れたところで髪の毛を逆立て苛立ちを露わにして立っていた。