こんな能力(ちから)なんていらなかった
怒髪天を衝く。
まさにそんな感じ。
そしてその男以外は光る紐のようなもので顔も見えない程縛られ、床に転がっていた。
優羽が目を閉じている間に一体何があったというのか。
「……どうやってここに来た?」
「お前に答える必要はない」
紫音は男の方を振り返ることなくそう言うと、床に手を着いた。ブワッと黒い翼が広がる。
すると優羽の上を風が吹き抜けた。
すぐ後にパァンと何かが弾ける音が聞こえた。紫音の先にある窓の外、硝子のようなものが砕け散ったのを優羽は信じられない面持ちで見ていた。
「優羽」
何が起きたのか分からずに呆気に取られていると、紫音は優羽の腹に手を翳した。
ふわりとそこが暖かくなる。
その暖かさがさっきまで顔に感じていたものだと分かると優羽は頭に手をやった。
ヌルッとした感触がして慌てて手を見ると血がベッタリとついていた。
そのまままた頭に触れる。けれど傷らしきものはどこにもなかった。
そして紫音が手を離す。
さっきまで感じていた疼くような痛みはもうなくなっていた。