こんな能力(ちから)なんていらなかった
自分の使う治癒術とは少し違う気がする。
「他に痛むところはないか?」
紫音は身体を起こした優羽の頭に手を伸ばしながら聞いた。優しく頭をこする。頭についた血を拭ってくれているのだろうか。
離れていく紫音の手を見ながら思う。
紫音はいつも以上に優しいはずなのに。
何故だろう。
——紫音が怖い。
優羽がコクリと頷いた時、顔に影がかかった。
紫音が立ち上がったのだ。
見上げるものの逆光のせいで顔はよく見えない。
しかし、なんだろう?
背筋に感じるこの薄ら寒さは。
「……紫音?」
尋常じゃない雰囲気を醸し出している紫音に向けて、そう呼ぶも、返事はない。
「紫音っ!」
紫音は立ち上がろうとした優羽の肩にトンっと触れる。
たったそれだけで、優羽の身体から力が抜けた。
「え……」
何が起こったのか分からずキョトンとしている間に、紫音はゆっくりと男に向かって足を進める。
「ねぇってば!」
強めに呼んでも紫音の足は止まらない。
そして、紫音が男に手を伸ばす。
それよりも一瞬早く男の方が動いた。