こんな能力(ちから)なんていらなかった
そんなことを知ってか知らずか、紫音はようやく声をあげた。
「……だが、あいつはっ……」
「『あいつは』なに?」
仇?
この男は、紫音の大切な人の仇だから、そこまで怒っているの?
優羽は微かに顔を歪めると紫音に気付かれないであろう程度に下を向く。
続く言葉を想像して、一人悲しくなって、顔を歪ませて、ほんと自分はバカだと思う。
けれど、そんな自分を優羽は知られたくなかった。
下を向いて涙を堪えた。
だから、紫音の表情なんて何も見えてなかった。
「……あいつは、優羽を、殺そうとした」
その絞り出すような、小さく、震える声を優羽は理解できなかった。
弾かれたように顔を上げる。
紫音も、優羽の顔を見ずに床を見ていた。
——苦悶の表情。
じゃあ、なに?
紫音は私に危害を加えられたことを怒っていたの?
こんな状況なのに、思わず顔が崩れた。
「あと少しで、お前を失うところだったと思ったら、もう……」
男の首元を掴む右手からギリギリという音が聞こえてくる。
最後まで言われなかったが、言わんとしてることはなんとなく分かった。