こんな能力(ちから)なんていらなかった



 その時、ふと優羽の顔に黒い影がかかった。


「優羽!」


 その声はよく聞き慣れたものだった。

 見れば、唯斗と晃、そして、流が窓際に立っていた。


 呆気に取られてぽかんと口を開けた優羽の元に流が駆け寄る。

 
「優羽、よかった……」

「優羽様!」


 優羽と目が合うと流と晃もホッとした顔を見せた。

 それも束の間で——


 ガツンと嫌な音が教室内に響いた。


「…………だったのに……」

「……?」


 男は床に手をつけて何かを呟いていた。ブツブツと何かを言い続けるその姿は異様で、優羽は無意識のうちに自分の腕をさすっていた。

 しかしその男は突然顔をあげ、優羽を睨みつけ、叫んだ。


「あと少しだったんだ——!!!」


 男があげた腕は迷うことなく、優羽に向けられていて。
 男の掌から突然放たれた炎弾に優羽は動けずにいた。

 しかし、逃げることを考える前に紫音がその炎に手を向けると、それはしゅるんと何処かに吸い込まれるようにして消えた。


「あ……」

「……後は任せて、優羽は休んでろ」


 そう言って紫音は男と優羽の間に立った。



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