こんな能力(ちから)なんていらなかった
じとっと唯斗を後ろから睨みつける。
優羽の殺気に気付いたのか唯斗はすまんと手をあげた。
こんな緊迫した空気で。
ほんとにありえない。
「……それは記憶がないからだろう?」
アレイスターと呼ばれた男はそんなことを言う。
当たり前のようにぽんと吐き出された言葉——
だが、それはその場の空気を変えるのには十分すぎる破壊力を持っていた。
四人に囲まれた中で優羽は一人背筋を凍らせた。
指を動かすのも辛いほど空気が痛い。
重く冷たい空気は、容赦無く優羽の心臓を締め上げる。
「……優羽が言ったのか?」
「いってないよ!」
振り向いた唯斗に優羽は慌てて否定する。
「……最初から知ってたみたい」
それだけを絞り出すと、唯斗の眉間の皺が一層濃くなった。
「……おい、てめぇ。それを誰から聞いた?」
「そんなのあんたには関係ないだろう?」
「それが、関係あんだよ!」
「は? お前までこのアバズレと関係持ってるって言うのかよ!?」
突然のことに何の反応も出来なかった。
……アバズレ?
男は確かにそう言った。
優羽を蔑むことを。
「記憶がないなら、俺が教えてやるよ!!」
今まで気付いてなかったが、アレイスターの今までの口調は最初とは嘘のように変わっていた。
口調が変わると人間まで変わったように思える。
悠長なことを考えていられたのはここまでだった。