こんな能力(ちから)なんていらなかった



「あ……」


 その腕は、見事にアレイスターの左顎を捉えており、振り抜いたその反動でアレイスターは後ろに倒れこんだ。

 黒板に思い切り頭をぶつけて、床に倒れ伏したアレイスターはピクリとも動かない。

 完全な一発K.O.だった。


「……おい、晃」


 紫音の声が冷たい。
 唯斗はあーららーと抜けた声を上げる。
 流は呆気にとられていた。


 紫音の尋常でない圧力にも晃は物怖じせずにすいませんでした、と謝った。


「……たく、お前ってやつは……俺がやりたかったのに」


 そっちか!と突っ込んだのはけして優羽だけではないだろう。


「失礼致しました」

「くそっ、お前が一発で終わらせちまったから、仕返しも何もできてない」

「申し訳ありません」

「せめて、俺が殴りたかった」

「それは、やめておいた方がよかったかと」


 今まで謝っていたのに、突然やめておけよと言外に告げた晃に対して、紫音の眉間に皺がよる。


「……なんでそんな風に思うんだ?」

「…………貴方殴ったら優羽には見せられないような、凄惨な光景が広がっただろうと思いますよ」


 それを聞いた唯斗は爆笑した。
 紫音も顔を顰める。



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