こんな能力(ちから)なんていらなかった
「力をセーブできる余裕なんてありましたか?」
「一発で脳髄ぶちまけるだろ、こいつなら」
唯斗の忍び笑いに凄んで見せた後、紫音は前髪を掻き上げる。
「確かに、そうなったかもな」
「確実に、そうなってるよ」
唯斗は懲りるということを知らないんだろうか。
しかし、紫音は今度は怒ることなく溜息をつき、「確かにな」と認めた。
「あいつへの怒りでどうにかなりそうだったからな……」
その言葉に不覚にもキュンとする。
チラと優羽を見つめるその表情に、やっぱり勘違いしてしまう。
「優羽」
その目がいつの間にかこっちを見ていて、何故か緊張した優羽は唾を飲み込む。
「あいつの言ったこと信じなくていいから」
「……え、でも」
思わず嘘だとは叫んだけれど、あいつからは嘘をついていると感じ取れなかった。
けれど、紫音は静かに「いいんだ」と首を振る。
「……お前は女王じゃないから」
紫音はハッキリとそう述べた。
紫音に言われてそういうことか、と思った。
アレイスターの言ったことは嘘ではない。だけど、それを皆が否定したのは優羽とは違う人物であるという点だけだったのだ。
そしてアレイスターに向けられた怒りは女王に対する侮辱、決して優羽の為ではなかったのだ。