こんな能力(ちから)なんていらなかった



「うん、分かった」


 なんとか顔に笑顔を貼り付ける。


 そこにいた三人は、皆女王のために怒ったのだ。
 優羽のためじゃない。
 それを思い知らされて、ほんの少し前に感じた自惚れが恥ずかしくなって、本当は今すぐこの場を走り去りたいくらいだった。


 しかし、そんなことすれば三人、いや四人は慌てて後を追ってくるだろう。
 それを考えると迷惑にしかならないことはやめた方がいい。

 もしかしたら、追ってこないかもしれない。

 そんなことを考えたら一瞬自虐的な笑みが浮かんだ。

 でも、すぐに取り繕う。


 誰か気付いただろうか。
 一瞬だけ優羽の笑顔の質が変わったことに。

 周りの面々を見てみれば誰も気付いたようには見えなかった。

 こっそり安堵の息を吐き出す。


 静かに笑う優羽の肩に流が手を置く。


「……どうしたの?」


 少し驚いた。
 突然のことだったから。


「英明様に連絡入れてくるから、ケータイ貸せ」


 はよ、寄越せと言わんばかりの流に優羽は慌てて「しなくていいよ!」と声を上げた。


「いいから」

「いいからって言ったって……」


 優羽が戸惑うのも当然だ。
 なんたって、流はケータイを使ったことがないのだ。
 電気ポットのお湯の出し方に四苦八苦してるような奴に、ケータイを使いこなせるとは到底思えない。


< 340 / 368 >

この作品をシェア

pagetop