こんな能力(ちから)なんていらなかった
「いつまで乗ってんのかって聞いてんの!!」
「んー……優羽がさっきしようとしてたことをするまで?」
「んなっ!?」
紫音はできたらどいてあげる、と微笑んだ。その様は小学校の先生のようだ。
こんな綺麗な顔した先生なんて見たことないが。
「ほら、早く……」
「いや、早くって言われても……」
できるわけがない。
紫音も優羽ができないことを知っていて面白がっているに違いない。
「……悪趣味」
「なんか言った?」
その時タイミングよくケータイがなった。
「あーあ」
固まった優羽の上で紫音は残念そうな顔をする。
「時間だ」
「え?」
「デートの時間」
言うが早いか紫音は立ち上がる。
そして、優羽に何か差し出した。
「Merry Christmas」
綺麗な発音で告げると優羽にその紙袋を握らせた。
「それに着替えたら約束のデートに行こう」
某然とする優羽に紫音は微笑みかける。
「俺は外にいるから」
驚いて優羽が顔を上げると、紫音はもう部屋を退出するところで、「急いでな」の声を最後に扉は閉じた。
「…………」
扉を見た後、その紙袋を見る。
「まぁいいや、着替えよ……」
そうして、紙袋の口に手をかけた。