こんな能力(ちから)なんていらなかった
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ガチャリと玄関の扉が開く。
その音で紫音は顔をあげた。
「お待たせ……」
そこには頬を染めた優羽が立っていた。
「突っ立ってないでこっちにおいで」
優羽はその言葉に従うと、駆け足で紫音の元まで来た。
「じゃあ、行こうか?」
「うん……」
紫音が待たせていた車のドアを開けると優羽は戸惑いながら足を車に乗せた。
「ありがと……」
紫音も乗り込んで腰掛けたところで、優羽ははにかんだ。
「このワンピースすっごく可愛い」
「どういたしまして」
演技かかった口調でわざと言うと優羽は笑った。
優羽にあげたのは、淡いピンクのシフォンワンピ。裾に幾重にもフリルがついた甘めのやつだ。
それの上から優羽は白のロングコートを着てるから全く見えないが、きっと似合ってるはずだ。
ふと優羽の方を見ると、そわそわと落ち着かなそうにしている。
見てない振りして窓越しに観察していると、紫音の服を気にしているようだった。
そりゃそうか、と一人ごちる。
自分が着ているのは昨日と変わらず制服のままだから。フォーマルスタイルの優羽が気にするのも無理はない。
しかし、自分はプレゼントとして服を貰った側だから、何も言えないといったところだろうか。
「もう着くよ」
「え!?」
優羽が驚いた声を上げると同時に、車は減速し一度も車体を揺らすことなく静かに止まった。