こんな能力(ちから)なんていらなかった
早々に車から出て優羽の座る側のドアを開ける。
「ほら、おいで」
手を差し出すと、優羽はおずおずと差し出して、紫音の手に捕まった。
「……ありがと」
外に出た優羽は礼を述べる。
「いいえ?」
こっちと促すと優羽は一瞬立ち止まって、いつの間にか外に出ていた運転手に向かって礼をした。
素直な優羽についつい頬が緩んでしまう。
「紫音様お気をつけて」
「香水(かすい)ありがとう」
幼い頃から専属の運転手である香水は、まるで父親のような眼差しを向けていた。無言のエールを感じる。
いや、違う。面白がってる。あの顔は。
「……紫音、ここに入るの……?」
「ん?あ、ああ。ここに入る」
言い切った紫音に優羽はあからさまに動揺の色を見せた。
「いいから行くよ」
「え、え!」
有無を言わさず腕を引っ張って中に連れてく。
ドアは開けなくとも勝手に開く。
「いらっしゃいませ、紫音様」
「あの通りに」
「畏まりました」
すると優羽はあっという間に奥の方の部屋に連れて行かれた。
「さてと……」
紫音も一歩踏み出す。
横を見ると責任者が笑顔で立っていた。
「紫音様はこちらにどうぞ」
「分かった」
了承の返事をすると促された方に向かって歩き出した。