こんな能力(ちから)なんていらなかった




 灰色のスーツはとても紫音に似合っていて、思わず嘆息するほどだった。


「優羽おかえり」


 にっこり笑いかけられて、優羽は縮こまる。

 せっかく可愛くなったつもりだったのに、紫音の横ではそんなの意味がない。少しは釣り合うだろうかなんて思ったこと自体が、図々しい。
 全ての視線は紫音に持って行かれる。

 それだけ紫音はかっこよかった。


「じゃあ、行こうか」


 すっと腕を出される。

 それは紫音の腕に自分の腕を絡めろという合図で、優羽は恐る恐る腕を組んだ。


 紫音はそんな優羽を見て嬉しそうに笑う。


 優羽は変な緊張でその後のことをよく覚えてない。


 車に乗せられた後も、紫音はずっと優羽の手に自分の手を重ねていて、どんな顔をしていいかわからなくてあげられなかった。


 車の中で揺られること何分……いや、何十分?それすらも分からない。
 そんな折に車は徐々に減速しゆっくりと止まった。


「着いたよ」


 スッと顔を上げる。
 窓の外は薄暗くてよくわからなかった。

 いつの間に日は沈んだのか……、そのことに驚いてカバンに入れてあった携帯を開く。

 時計はPM05:37。
 もう日が沈んでて当たり前だ。



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