こんな能力(ちから)なんていらなかった
華桜院には名前の通り沢山の桜が植えられている。それと共に大量の桃も。
桃は悪しきものを退ける——
それは古来から信じられてきたことで、彼のイザナギも黄泉の国から逃げ帰る時に桃の木に助けられたと言う。
実際桃の木は邪な気を寄せ付けない。
それが大量に植えられているということは雑鬼、怨霊が入りづらいことを意味する。
その学園は一般人には見えないものが見える優羽にとって願ってもない好環境だった。
そのためここに転入することを望んだのだが、その考えは親にあえなく却下されてしまう。
何と言っても、旧貴族やら華族やらが大量にいるもんだからセキュリティが凄い。
その維持費に莫大な金がかかるため、かかる金が公立校に比べて跳ね上がるのだ。
そんな高校に庶民な親が金を払えるはずもなく今の高校に通う次第となった。
本気で行こうと考えていた。だからこそ知っている。華桜院学園に夜間授業なんてものがないことは。
ジトーッと紫音のことを見る。
制服を知らないとでも踏んでいたのか、紫音は決まり悪そうに頬を掻いた。
「家庭の事情ってことで納得してくれないか?」
そう言われて優羽は自分の口を抑える。
自分のしてることは他人の家に土足で踏み込んでいるようなものだ。なんて図々しいことを自分はしているのか。