こんな能力(ちから)なんていらなかった



 今度は優羽が決まり悪くなる番だ。それ以上追及することなく紫音から目を逸らした。


 無言になった優羽に紫音は怪訝そうに首を傾げたところで、あっと小さく声をあげた。

 そして再び優羽の手を引いて走り出す。


「どこ行くの?」


 優羽はなんとか着いて行きながらそう尋ねる。


「早く行かないとだろ?」


なんのことだろ?


 優羽がそう考えた瞬間背中からカチャという音が聞こえてきた。

 その瞬間、自分が何故今ここにいるかを思い出した。


「手、離して!」


 前を走る紫音に叫ぶように言う。
 しかし紫音はさらに、強く腕を握る。


「ちょっと!」

「いいから黙ってこい」


 優羽は上を見る。
 ビルの隙間から見える空に黒い影が見える。
 それが集まっているのは進行方向と反対側のはずだ。

 紫音の腕をペシペシ叩く。


「あっちに用事があるの!」

「よく見てみろ!」


 とうとう叫ぶように返答した紫音に従い雲の流れをよく見てみる。


「……あ」

「分かったら素直に走れ」


 その黒い軍団は明らかに自分達の走る先に向かって動いていた。


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