こんな能力(ちから)なんていらなかった



 突然鮮明になった視界に、一人の男の姿が飛び込んでくる。


 その姿も知ってる。

 もう全部思い出した。




だから、分かっちゃったよ——



紫音、


貴方が私の『アラウディ』だったんだね。





私は、本当に





『フィリアム』だったんだね。



 こんな時に、世界がスローモーションになる漫画の世界は本当にあることなんだと知った。




 一瞬で全細胞が縮みこむほど冷たい海の中。その中へ優羽の体が飲み込まれる寸前に、紫音に身体をきつく抱きしめられる。





ぱっしゃーん————





 派手に水飛沫があがる。
 けれど、そんなことはもうどうでもよかった。



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