こんな能力(ちから)なんていらなかった


 ここまで知っているのならかなり親しかったに違いない。
 今まで抱えていた警戒心が溶けていくのが自分でも分かる。


「今度暇な時に話せないかな?」

「それは『デートのお誘い』ととっていいのか?」


 紫音は明らかなからかう口調で言う。


「で、デート!?」


 優羽はそれを軽く受け流せるほどその単語に慣れていなかった。

 声が裏返っている。

 紫音はプッと噴き出すと冗談と笑った。


「そっちで日時指定して」


 了承の返事を返そうとしたところで、思い出す。


「仕事の都合は……?」


 そう紫音は学生であると同時に会社員でもある(らしい)。

 紫音に合わせた方がいいんじゃないのか?と思うのは当然のことだ。
 しかもお願いしているのはこちら側なのだから。

 しかし紫音は考える間も無く首を横に振る。


「そんなのは、どうにでもできるから」


 その台詞と紫音の笑顔に底知れぬ何かを感じる。

 ここは素直に従った方がいいようだ。


 優羽は頷くことで返事をした。


 話がひと段落ついた所で紫音が優羽の手を握る。
 ナチュラルすぎるその動作に優羽の顔は赤く染まる。


「な、なに!?」

「途中まで送るよ」


 言うとすぐに歩き出す。


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