こんな能力(ちから)なんていらなかった


「紫音がこんな人だとは思わなかった!」

「優羽は相変わらず可愛いけど?」


 話の脈絡がおかしい。

 膨れっ面の優羽の頬を紫音は楽しげにつつく。
 裏門に来たところで紫音は手を離した。


「じゃあな」


 あっさりと離れていった体温に優羽は呆気にとられる。

 その顔がそんなに変だったのか紫音はまたも笑うと。


 優羽の額にキスを落とし。


「今度こそメールしてこいよ?」


 そう言い残して帰っていった。

 優羽は暫しそこに立ち尽くすと、その後黙って保健室の方に向かって歩き出した。

 下駄箱で靴を脱いで、上履きを履いて千秋をあの掃除用具に入れて、保健室のノブを掴む、が回さずに少し考え込むこと数秒、来た道を引き返し、トイレに身を潜めたところで何か呪文らしきものをボソボソと唱えた。
 すると間もなく保健室のノブが回り優羽と同じ姿をした式神が出てきた。そのまま真っ直ぐこちらに来たそれはトイレに入った瞬間に一枚の紙へと姿を変える。それを指に挟んでキャッチした優羽はポケットにそれをしまい数分後、保健室へと向かった。


「あら、どうしたの? 顔真っ赤じゃない? 熱でてきた?」


 保健室の先生は優羽の顔を見るなり捲し立てる。だが、声音で心配してくれているのが伝わってくる。


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