こんな能力(ちから)なんていらなかった


「ちょっと、頭ぼぅっとして……」

「少し歩いたからかしらね〜、熱測ってみなさい」


 渡された体温計を素直に脇に挟み待つこと数分、熱はない。至って普通。つまり平温。


「もうちょっと寝とく?」

「……そうします」


 優羽はそう言うと一つだけ布団の乱れたベッドに潜り込む。
先生がカーテンを閉めてくれた後、息を吸い込み。


「ーーーーーーっ!!」


 声にならない叫びをあげる。

 布団に顔を埋めているから先生には何も聞こえていないはずだ。

 だから遠慮せずに叫び続ける。


何あれ!?

何あれ何あれ何あれーーーーっ!?!?


な に あ れーーーーーー!!!!!


どこの国の男だよ!?

別れ際にキスってどこの国の文化だよ!?


 暴れたい衝動に駆られて、枕を掴んで壁に投げつけようとしたところで、紫音の唇の感触が蘇ってくる。

 優羽の頭からふしゅーと湯気が出てきたかと思うとそのままベッドに突っ伏した。


自然すぎて避けられなかった……。


 優羽は無意識のうちに指先を額に這わす。


男でも柔らかいんだな〜。


 ハッと顔を上げると浮かんだ思考をどこかに放り投げる。

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