こんな能力(ちから)なんていらなかった
「警察も大変だな……」
手を拭きながらリビングに戻ってきた優羽は、既に次のニュースに移っていたテレビを消し自分の部屋へと戻っていった。
***
「あ」
約束の時間より十分早く待ち合わせ場所に着いた優羽は小さく声を上げる。
そこにはすでに紫音の姿があったのだ。
紫音は足を組みながら壁に寄りかかり、文庫を開いていた。
これだけで何て様になる男なんだ。
この男がいるだけで、何気ない日常が一瞬でドラマのワンシーンへと変わる。
周りの人間もそんな紫音を通りすがりに眺めては頬を朱に染めあげる。男女問わず惑わすその美貌に優羽はふうっと溜息をついた。
自分はあれの横に立つのか……。
既に周りの視線が怖い。
躊躇う優羽は改札を通ったにも関わらずなかなか紫音の元に足を運べない。
しかし、ふと顔を上げた紫音と優羽の視線がかち合う。
途端に目を細める紫音。
早く来いと言われてるような気分になり、やっとのことで腹をくくった優羽は自分の足を紫音の方に向けて動かした。
「おはよう」
「お、おはよう……」