こんな能力(ちから)なんていらなかった



「ここ?」

「そ、優羽は歌うの大好きだろ?」


 目を丸くする優羽に紫音は笑うとさっさとその建物の中に入っていく。優羽も慌ててその後に続いて入ると紫音は既にカウンターで記入し始めていた。


「どの機種がいい?」

「……じゃあ、こっち」


 言われるままに丸をつける紫音。
 その後、それをカウンターの中にいるお兄さんに差し出す。
 受付のお兄さんは笑顔でそれを受け取ると御案内します、と前を歩き出した。それに二人も続く。

 案内されたのは廊下の一番奥より一つ手前の部屋で、一番奥はパーティ用の大きめな部屋だったのが扉についた窓ガラス越しに窺えた。

 優羽が案内された部屋に入りコートを脱ぐと、サッと横から取られ、振り向いた時にはもう壁のハンガーにかけられた後だった。


「ありがと……」

「どういたしまして」


 綺麗に笑った紫音の顔を見ながら英国紳士ってこんな感じなのかなと思った。


「さて、」


 紫音は優羽の隣に腰掛ける。
 そして机の上にあった大きなパネルのついた機械を寄越した。


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