こんな能力(ちから)なんていらなかった
「なにか頼むからその間に曲入れていいよ」
優羽は紫音の顔を見つめる。
紫音は優羽が自分のことを見ていることに気付かずにメニューを捲っていく。
ドリンクのページに辿り着いた紫音は顔を上げた。
「なぁ、……どうかした?」
優羽の顔を見た紫音はそう言った。
「どうかって?」
「ずっと俺の顔見てるから、なんか変なのかと」
「普通だと思うけど……?」
特に何も考えずに紫音を眺めていたため、他に答えようがない。
「……まぁ、いいか」
紫音は首を傾げた後、メニュー表を差し出した。
「どれがいい?」
開かれた場所に書かれたジュースは思ったより品数が豊富だった。
数秒後優羽はメニューの写真を指差す。
「アイスティー……かな?」
「言うと思った」
紫音は口を押さえるが、ククッと笑い声が漏れ聞こえる。
ジロリと睨んでみても効果は無し。
優羽は不貞腐れて机の上に頬杖つく。
——そんな笑うことでもないじゃんか。
なのに何故こうも紫音は笑うのか。
紫音は頬を膨らました優羽に気が付くと漸く笑いやんだ。
紫音は壁に取り付けられた電話を手に取ると、誰かと話し始めた。漏れ聞こえてくる会話を聞くに、先程のジュースやらなんやらを注文しているらしい。