こんな能力(ちから)なんていらなかった



 画面の中にいたのは真っ黒な髪をゆるく縛った女の子。いい感じにふわふわに編み込めてはいるのだが。

 問題は分厚い前髪と黒縁の眼鏡だった。

 とにかくそれがその子を暗くしてしまっている。
 表情もよく見えない。


「…………確かにこれは近付きにくいわぁ」

「因みに小難しい本を黙々と読むのがデフォだから」

「それは……話しかけるのに勇気がいただろうね……」


 紫音は曖昧に笑う。


「てかよくこれと私が同一人物だって分かったね?」


 こんなに顔を隠されては、全然分からないと思う。
 優羽の髪は今は短く、肩に届かない程度の長さで、しかも眼鏡はかけていない。
 たったそれだけでもかなり印象は変わるはずだ。

 それなのに、何故紫音は私が千歳優羽だと断定できたのか。


 答えは思ったより簡単だった。


「次の写真見てみろよ」


 紫音はひょいと携帯を取り上げるとポチポチと操作して「きっと驚くよ?」と優羽の手に戻す。

 怪訝な顔をしたまま、それを見た優羽は。


「……は」


 目を丸くしてその画面を食い入るように見つめた。


「……整形?」


 思わず呟いたその言葉に紫音はゴホッと噴き出した。


「なんでそうなるんだ!?」

「……だって、こんなのあり得ないでしょ」


< 56 / 368 >

この作品をシェア

pagetop