こんな能力(ちから)なんていらなかった
そうなれば、取り憑かれた人やその周りの人間は甚大な被害を被ることになる。
そうなる前に浄化し、人に害為すものを調伏するのが
私達『祓屋』の仕事だ——
靄も期待通り優羽の気配に気が付いたようで、方向を変え付いてくる。
膨大な霊力を持つ優羽は妖にとって御馳走のようなものだ。美味しく力を得られる最高のご馳走。
優羽は自分の霊力を囮にしながら路地裏に入ると幾度となく角を曲がり奥へ奥へと進んでいく。
やがて、少しだけ開けた所に出た。
そこで待つこと数秒、ビルの狭間の暗闇から靄が現れる。
『血ィ、寄越セ……』
それはうわ言のように何度も繰り返す。血を寄越せ、と。
「嫌に決まってんでしょ」
断るや否や真っ直ぐに優羽へと襲いかかるそれ。
しかし優羽は慌てることなく背中に背負っていた鞘袋に手を入れると、勢いよく収まっていたものを引っ張り出す。
優羽が手にしたのは一振りの日本刀——
「千歳の血と名の下に」
その刀をしっかりと握り直すと鞘を抜き取り、親指の先を噛みちぎる。
「——千秋(せんしゅう)、血を求め紅に染まれ」
滴る紅い雫を日の光を反射する銀の刀身に走らせる。
すると、波紋が池全体を覆うように、刀身が紅に染まっていく。