こんな能力(ちから)なんていらなかった



「俺は、今も昔も優羽は世界で一番可愛いと思ってる」


 紫音は色気たっぷりの声で囁く。

 顎を捉えられている優羽は逃げることも叶わず、その声に肩を震わす。

 それに気付いた紫音はクスリと笑みを漏らす。


まだ早かった?


 そう言って紫音は体を元の位置に戻す。
 優羽はその状況について行けてなかった。


『可愛い』


 その言葉が頭を巡って離れない。

 紫音に視線をやっても涼しげに笑っているだけ。

 もしかして、いや、確実に


——からかわれた!?


 そこにノックの音が響く。

 間髪入れずに開く扉。


「ピャ!?」


「お待たせしました。アイスティーと珈琲、ポテトとたこ焼きをお持ちしました」


 中に入ってきたのは若いウェイターさん。
 多分同年代ぐらいの男子。ちょっと赤い髪に耳についたゴツいピアス。

 優羽は見たことがないはずのそいつに、何故か強い既視感を覚える。
 あちら側も目を丸くして優羽のことを見つめたかと思うと、メニューをさっさと机の上に並べて急いで部屋から出て行った。


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