こんな能力(ちから)なんていらなかった



「知り合いか?」

「……いいや?」


 優羽はそう言うと脱力した。


「あんな突然入って来られるとびっくりする」

「いつも気配探ってんじゃないのか?」

「こんなプライベートの時まで周りに警戒したくはないもんだね……って、え?」


 紫音はアイスコーヒーを飲んでいる。
 安っぽい香りなのに、優雅に見えるのは紫音だからなのだろう。

じゃない!


「私そのこと言ってないよね!?」

「中学ん時教わった」


 何でもないだろと言うように答える紫音。


「他にも、いろいろ近くで見聞きしてたからな、例えば千秋のこととか」


 ニッコリ微笑まれて言葉を失う。


「『千歳の血と名の下に——千秋、血を求め紅に染まれ』だっけ?パッと聞くとただの厨二病だよな」

「……そんなの私も前々から思ってたけど!」


 紫音は一語一句間違えずに諳んじることができた。


「……ねぇ、知ってる?」

「何が?」


 紫音は目だけをこっちに投げかける。


「基本術名とか同業者や妖に知られると、困るから聞き取れないよう術かけてるの。……それ全部聞き取れるって紫音は何者?」


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