こんな能力(ちから)なんていらなかった
その時視界の隅に黄色いテープが映った。
きっと紫音も気が付いている。
だけど、二人とも一切そのことを話そうとはしなかった。
「あ、ここだよ」
優羽は紫音の手を引いてその店の中に入る。
ドアについたベルがカランコロンと音をたてるとすぐに、どこからかウェイトレスさんが現れる。
「いらっしゃいま、せ…………!」
席に案内しようとしたその人は顔を上げた瞬間に頬を真っ赤に染める。
優羽は自分の隣に立つその原因を見上げて顔を顰めた。
「席奥の方にしてもらえませんか?」
「はいぃ!」
話さなければいいのに紫音は後ろから注文をつける。
そのせいでウェイトレスさんは今にも倒れてしまいそうだ。
二人とも素直にお姉さんの後をついていく。
「ご注文が決まりましたら、お呼びください……」
席に二人が座ると、ウェイトレスさんは紫音にだけ笑いかけた。
あからさまな色目に優羽はムッとする。
「なんでそんな膨れっ面なんだよ」
ウェイトレスさんが去った後、頬をブニュッと潰される。
本日二回目。
「……ずるい」
「何が?」