こんな能力(ちから)なんていらなかった
数秒後、静かに目を開けた優羽は放り投げた鞘を拾おうとかがもうとして、いや、そう見せかけた。
低い体勢からそのまま斜め上に刀を滑らせ、そして、驚きで目を見開く青年の喉元で止めた。
勿論、押し当てているのは峰だ。この千秋で人間を脅すには切れ味が良すぎる。
「……気付いてたのか」
見下ろす青年はそっと笑った。
それは見知らぬ人間に向けるような微笑みではなかった。
「貴方は誰?」
気付けばそんな言葉が出ていた。
一切視線を逸らさずに鋭い目つきで真っ直ぐ青年を見つめ答えを待つ。
しかし、返ってきた言葉は期待していたものではなかった。
「お前が俺の前からいなくなるって知ってたら、俺はどうしてただろうな……」
青年は頸に刀を当てられているにも関わらず足を踏み出す。
優羽は驚きの視線を青年に投げた。
青年は死にたいのだろうか。
それとも、峰ではあるが頸に刀が当てられていることに気付かない程の馬鹿なのだろうか。
言っておくが、押し当てられているのが峰だということは青年が気付く筈ない。青年はひたすら優羽の顔しか見ていないのだから。
「……死にたいの?」
「いいや?……でも、お前に殺されるのは悪くない」
真面目な顔で青年は言い切る。