こんな能力(ちから)なんていらなかった
携帯が紫音からのメールを受信したのは初デート(?)から一週間がすぎた頃だった。
前回のデートの別れ際、紫音はすぐにメール送るとか言っていたくせに。
——これですぐのつもりだったらはっ倒してやる。
そう呟きながらメールを開いた。
***
発車音の放送が流れる駅構内で階段を駆け上がる姿が一つ。
その呼吸は荒く、額では汗が日の光を反射している。
なんとか飛び乗ったその瞬間にドアが閉まった。
一瞬開いたのは自分のせいではないと信じたい。けれどまぁ、どうせ自分のせいだろう。
周りから不躾な視線を感じながら優羽はドアの横に立った。
タオルで顔を拭きながら言い訳がましく呟く。
「私のせいじゃないのに……」
そう自分のせいなんかでは断じてない。
全ては紫音が悪い。
優羽は携帯を開いて、さっき届いたメールの内容を読み返していた。
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14時までに渋谷
着いたら連絡しろよ
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「なんでこんな偉そうなのさ……」
はーと溜まっていた息を吐き出す。
壁に寄っかかって足を組み替える。