こんな能力(ちから)なんていらなかった



今この人なんて言った!?


「知り合いいんの!?」

「いなかったけどね」


 とりあえず座ったら?そう促がされて自分が椅子から立ち上がっていたことに気が付いた。


「何、……知り合いに羽持った奴いんの?」

「知り合いっていうか、仇っていうか」


 紫音は最初渋っていたが、途中で開き直った顔になった。

 そして話してくれたのは衝撃的なことだった。


 ——“あらゆる”意味で。


「俺の大事な奴がそいつらの仲間に傷付けられた」


 優羽はえ……と紫音の顔を見る。


「最近の事件が起きるよりずっと前。今でもはっきり覚えてる……あの時のこと」


 優羽は紫音に何も言うことが出来なかった。

 今までも何度か紫音の顔が怖いと思ったことはあった。


 ——でも。

 ゾッとしたのは今日が初めてだった。


 下腹部にくる底冷えした恐ろしさ。


 これは本当に人間なのだろうか。

 こんな顔を人間はすることが出来るんだろうか。


 そして、その顔に恐ろしさを感じれば感じるほど、心臓が痛む。


 紫音は確かに言った。

 大事な奴が傷つけられた、と。



——紫音にこんな顔をさせるほど、想われている人がいる。



 そのことが一番優羽にとって衝撃的なことだった。



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