こんな能力(ちから)なんていらなかった
パブロフの犬か!
自分で自分を叱咤して足を止める。
が、紫音も気付いてくれたらしく手を上げるのが見えた。
なら、いいよね?
goサインを出した瞬間走り出す足に呆れてしまいそうになるが、これが自分の本能かと思うとそんなこと考えてもいられない。
「紫音!」
「帰り道に会うって初めてだな」
微笑む紫音にキュンとしながらも、心臓に痛みが走る。
ああ、嫌だ。
こんな気持ちになるくらいだったなら、知らなければよかった。
紫音の想い人の存在なんて。
見たこともない人のために何故ここまで苦しまなければいけないのか——
優羽のテンションが僅かに下がった時。
「優羽……?」
か細い声が聞こえた。
聞いたこともないくらい可愛い声。
そして上品そうな話し方。
自分が想像していた紫音の彼女のイメージにぴったり合う声。
まさか、この子が紫音の——?
、そう思い当たるまで僅か百分の一秒。
鬼気迫る表情で振り向いた優羽は、
その姿に
絶句する。