こんな能力(ちから)なんていらなかった




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 ——どれくらいその暗い穴の中にいただろう。

 その腕を誰かが引っ張った。


 それが誰か分からない。

 暗闇の中では姿が見えない。




 だけど、知ってる——



 この腕の主を。



 体が覚えてる。

 この腕の中の温かさを。



『     なの?』

『やっと、見つけた』



 私は泣きながらその体にすがった。



大好き、

大好きなの、


貴方のこの髪が、

私を優しく呼ぶその声が

私のことを抱き締めるその腕が、



ずっと前から、



貴方のことが大好きだったの——




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