『友人狩り』
雫は郁也との電話が終わると着替え始めた。

“動きやすい格好”

それも引っかかる。

雫はジーンズを履き、黒のTシャツの上からパーカーを羽織った。
いつもと変わらない服装。
お洒落に興味のない雫はいつものように動きやすい格好になると再びリビングに戻った。


とっくに出かけてないと遅刻する時間なのに、まだ父はコーヒーを飲んでいた。
しかし、顔は余裕のない強張った顔をつくっていた。
父だけでなく、母も姉もそうだった。
いつもの朝のようで、いつもとは違う朝だった。


「私、そろそろ行ってくるね。」

雫はそう言い、リビングを出た。

<やっぱり、変だ。>

いつもならお見送りなんてない。
でも、今日は家族全員が雫を玄関までお見送りしている。
雫はスニーカーを履きながら思った。

<何か、今から自分が遠いところへ旅立つみたい…。>

「雫、気をつけてね。」

雫が玄関から出ようとすると、突然母が雫を抱きしめて言ってきた。
その後ろで父が寂しそうに見つめ、姉は俯いている。

「お母さん?」

雫は抱きしめてくる母をゆっくり離しながら言った。

「ごめんね、なんでもないのよ。いってらっしゃい。」

母の無理やり作った笑顔に後ろ髪を引かれながら雫は家を出た。
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