深海魚の夢~もし、君が生きていたなら~
「ねえ、ハルってさぁ、イケメンギタリストと付き合ってるんだって?」
一通りの男漁りにも飽きたのか、サクラさんは下心のありそうな視線を向けてきた。
今は、会社の昼休み。
どこで情報を仕入れたのかは知らないけれど、カナタとの事を剰り他言していない私にとっては、この話題は苦痛でしかない。
周りの同僚から、えー、ハルさんって凄い人と付き合ってるんだー!、なんて尾ヒレのついた反応が返って来る。
手元のペットボトルを倒しそうになりながら、なんとか思考を立て直そうと踏ん張った。
最近は少しずつバンドの知名度も上がってきた為にバレないようにと我慢をしてカナタの家で過ごす事も増えた。
何処で、私達の事を知ったのか、予想がつかない。
「…誰から聞いたの?」
「ルカくんから。もう、ハルは秘密主義だから親友の私にも全然教えてくれないよねー」
親友、という単語はスルーするにしても、ルカという名前が耳につく。
カナタの幼なじみでRe:tireのボーカルである荻谷 就理(オギタニ ジュリ)。
ステージネームや夜間のホストのバイトをしている間は「ルカ」と名乗っていると熟知しているから、特別驚く事でもない。
「ルカくんって営業上手だよねー、チケット買わされちゃった」
ほら、とヴィトンの財布から細長いチケットを出して見せたサクラさんに、納得を噛み潰したような顔しか出来ない。
服も時計も貢いだんだよー、と言っている辺り、ホストクラブでジュリがライブの動員を殖やそうと目論んで勧誘をしているのだろう。