深海魚の夢~もし、君が生きていたなら~
豪華なシャンデリア、大理石の床に、華やかな虹色の照明、きらきらと反射するミラーボール。
皮張りの真っ赤なソファーには新人らしき若いホスト達が不馴れな様子で客の相手をしているのが見て取れる。
このHeavenのオープニングスタッフとしてジュリとズッキーが入ってから、一年半。
出来たての初めの頃にカナタと私もよく出入りしていた場所だから、それなりに愛着があった。
…でも、サクラさんの話を聞いて一気に嫌悪感が募ってしまった。
ホストという職業にさえも。
「…本当は来たくなかったんだけど、ジュリに話があってね」
「しーっ!ここでは本名言っちゃ駄目だよ」
「…はいはい…"ルカ"ね」
ズッキーによる手厳しいイエローカードを出されてしまった。
私には"ルカ"という呼び名は定着していない。
暫く来ていなかったから、私の事を知っているスタッフも少ないようだ。
場違いな地味なOLの服装でこんな場所に来るのが珍しいとでも言うように視線が刺さる。
…服も顔も地味で悪かったね。
内心呟きながら、そういえば化粧直しもしていない、髪は一本縛りで色気もなにもない格好だと気づく。
(…女として終わってる、私)
完全に場違いの格好にもめげず、カツカツとヒールの爪先を鳴らしながらジュリを待つ。
カウンター越しにカクテルを作りながら、仕事先から直行するなんてよっぽど急用だね、とズッキーが苦笑する。
お客様、奥へどうぞ、と新人のスタッフが声を掛けて来た。
立っているのも疲れたので、一度客として入店する事にした。
…給料日前だけど、久しぶりに酒を飲むのも良いかもしれない。
そんな事を思いながら、よっこらしょ、と声を上げながら豪華なソファーに腰をおろした。