深海魚の夢~もし、君が生きていたなら~
「年寄り臭い声出してる人はっけーん」
一杯目のカクテルを飲んでいると漸く現れた問題の男。
金色の髪にビビッドピンクのシャツにシルバーのジャケット、市松柄のネクタイ。
周りを見渡しても飛び抜けて派手なスタイルで登場した彼は、随分VIPなお客様ですこと、とふざけた調子で言いながら私の隣に座って軽く舌を出した。
「…私とカナタの事言いふらさないでくれる?」
「なんの事ぉ?俺、わっかんなぁい」
「真面目に言ってんの!」
運ばれてきたジュリ用のビールのグラスを掴んで、ガン、と勢いよくテーブルに置く。
僅かなヴォリュームで掛かるデスメタル寄りのBGMはきっとコイツの趣味だろうと思う。
あー、テーブル傷つけないでよー、なんてニヤつく男は策士の眼差しを向けてきた。
ジュリは酒に強い癖に酔ったフリが上手い。
「俺、この後予約入ってるから飛び入りの客の相手はしてらんないんだけどー」
「ミヤガワサクラって人に営業したでしょ」
「あー、知り合い?なんで怒ってんの」
呑気な口調に苛々して、再び、拳でテーブルを、ゴン、と叩く。
溜め込んでいたフラストレーションが、一気に爆発した。
「Re:tireを安く売らないで!ネットでなんて書かれてるか知ってる?ホスト客のサクラ動員ばっかりって言われてるんだよ!?」
「おお、"サクラ"なだけにね。ナルホド」
ジュリが拍手をして言うと、私のヴォルテージはMAXまで上昇を遂げる。
私は常々思っていた。
ジュリの日頃の女癖の悪さによって、Re:tireの評判がガタ落ちになっている事に腹が立つ。
ボーカルを変えればいいのに、とカナタやズッキーに提案しても、アイツは才能があるから、なんて返されるのにも私は不服だった。