深海魚の夢~もし、君が生きていたなら~
「俺、この店のナンバーツーだから。ソレ以上言ったら指名料追加で取りますよ?」
「…っ…、あんた、」
──音楽かホストか、本命をハッキリしなさいよ!
公私混同しないで!
そう言おうとした瞬間、肩に手を置かれて言葉を止める。
「…勘弁してやってください、ルカは一生懸命なんです」
顔を上げると、Heavenでナンバーワンのホスト、ユラくんがいた。
さらさらの黒髪に端正な顔立ちで礼儀正しく、気配りも利いてナンバーワンに相応しい人。
彼も昔はバンドのボーカルをやっていたそうなのだけれど、挫折をしてホストになったという。
周りからの、あの女誰、ルカくんとユラくんに相手して貰って狡い、という声で我に返る。
…そうだ、ここはホストクラブだった。
この剣幕では完全に営業妨害になってしまう。
「…ごめんなさい、取り乱して」
「ハルさんがカナタくんを守ろうとしてる気持ちはわかりますよ。わかるからこそ、ルカは一生懸命なんです」
「…え?」
「色々聞いてますから、僕は」
余計な事言うなよ、とユラくんに軽いパンチを喰らわせたジュリは、ばつの悪そうな顔をして、ビールを一口飲む。
居心地の悪い沈黙が訪れた。
久しぶりに顔を合わせたけれど、元々私はコイツと衝突する事が多い。
音楽に対してよりも、ホストを優先させているように見えていたから。
「…俺が悪く言われるほうが、Re:tireは上手くいくんだよ」
──真剣だからこそ、どんな手を使ってもバンドの良さを知って貰いたいんだ。
知名度だって上がって欲しいし、ライブの動員も増やしたい。
ホストしてる時間だって、俺の中心はRe:tireだ。
俺は、嫌われ者の"ルカ"でいい。
言わせたい奴らには言わせときゃいいんだよ。
珍しく落ち着いた静かな口調で、彼は言った。